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秋の短編小説 恐怖の物語 (2000年秋号)                                             

   
  
さる8月下旬頃、菅名岳の中腹に熊が出没したとの通報。幸いケガ人は出なかったが、山のいたる所に「熊出没注意」の看板が掲げられた。
その事件からそんなにたってないある日、私達はイベント用の水汲みをしに菅名岳に登るはめになった。
10名くらい集まる予定が、なぜかその日集まったのはたったの5名。
そのうえ、何と私は集団の先頭を歩かされた。
「恐 い」。
私は素直にそう思った。
熊に襲われたら、とっても痛いのだろうとびびりにびびりながら、なんとか山の中腹までたどり着いた。
「あ〜、良かった。熊は出なかった。」
ホッとして水を汲んでいたその瞬間、近藤酒造の長谷川氏が叫んだ!
「うわー!相場さん!」
何事だ!と私はまたびびった。
「手に、ヒ、ヒルがー!」
見ると、私の手に山ヒルがへばりついて血を吸っているでないか!
「気持ち悪い!」
私はヒルをつまんで引き離そうとしたが、体が伸びるだけで皮膚から離れない。
そして、その瞬間ヒルが私の手の皮膚の中に入っていった!
「こ、これは謎の宇宙生物だ!」
でも、よく見ると体を収縮させているだけだった。
長谷川氏が簡単にヒルを取ってくれた。しかし、ヒルに噛まれたところからの出血が止まらない。私はなぜかその時、うちに帰ったらかみさんに自慢したくなった。
「ほれ〜、ヒルに噛まれたんだ。凄い血らろ〜」と。
早くそれを言いたくてうちに帰りたい一心の私は、すでに熊のことなど全く忘れていたのであった。                           

                                  おわり   

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